上海の安藤忠雄作品「明珠美術館」「光的空间 (光の空間)」を訪問

日本のデザインに関する面白い企画展が、安藤忠雄の手によって設計された上海の美術館で行われている、ということを耳にしまして、この度「Shanghai Pearl Art Museum 上海明珠美术馆 (明珠美術館)」と新華書店内の「光的空间 (光の空間 Light Space)」を訪れてきました。

前に一度、新華書店「新华文创・光的空间」に訪れたことはあるのですが、その時はコロナの影響のためかミュージアムが閉鎖されていました。しかし今回、無事にリベンジすることができましたので、その際の様子をここでご紹介いたします。

恐るべし、中国での安藤忠雄の高い人気ぶり!

2021年、上海で行われた世界巡回展『安藤忠雄展 -青春-』は80日間で15万人 (!!) をも動員しましたが、「1国1会場が原則の巡回展」でありながら、あまりの人気がゆえ特別に北京での開催も行われたというほど、中国においての安藤忠雄の人気は絶大です。

Christopher Schriner from Köln, Deutschland – flickr: Tadao Ando [CC 表示-継承 2.0]

2000年以降、安藤のプロジェクトは中国15都市以上で展開されており、それらには同氏が中国で手がけた最初の建築『上海国际设计中心 (上海国際設計センター)』や『上海保利大剧院 (上海保利大劇院)』、杭州の『良渚文化艺术中心 (良渚文化芸術センター)』、広東省佛山市の『和美術館』、同じく広東省の河源市で竣工間近の『诗之礼堂 (詩の教会)』などが含まれています。また、本人の正式な承諾を受けて同氏の名前を冠した「安藤忠雄ギャラリー」が上海市闵行区の生コンクリート工場跡地に開設されることが明らかになっており【参照記事】、その過熱ぶりは全く衰えていない様子。

実際、上海で巡回展が行われていた当時、微信 Wechat の朋友圈 (モーメンツ) に数多くの写真がアップされ、その熱烈歓迎ぶりには少なからず驚きを覚えたものです。

Shanghai Pearl Art Museum 上海明珠美术馆 (明珠美術館) 

通称「PAM」と呼ばれる Pearl Art Museum 明珠美术馆 (明珠美術館) は虹桥机场 (虹橋空港) や虹桥火车站 (虹橋鉄道駅) から車で5kmちょっとの距離にある、市内中心地からは少し外れた爱琴海购物公园 (AEGEN PLACE) という巨大ショッピングモールの8階に位置しています。

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ここは2017年にオープンした、決してもう「新しい」とは言えない、ごくごく普通のショッピングモール。地上8階&地下3階 (総面積55万㎡)、2000台の駐車場スペースを誇り、週末は家族連れで溢れるいわば「イオン」みたいな場所です。

ちなみに、モールのすぐ南側はちょっとした韓国人街になっていて韓国料理屋がたくさん集まる、そんな場所にこの明珠美术馆は位置しています。

Pearl Art Museum 明珠美术馆 (明珠美術館) 訪問に際して

美術館のあるショッピングモールは地下鉄10号線 龙柏新村駅の3番出口に直結した場所にあるのですが、駅の改札からモール内8階の美術館入り口までにコロナのチェック箇所が3つあり、徒歩で約10〜15分。

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右上に位置する紫色の卵状のスペースが光的空间〜明珠美术馆

スムースにチケットを購入するために、事前に微信公众号 (WeChatオフィシャルアカウント) を通じて予約をしておきましょう。ボクが週末の当日に予約した際は100人予約済み、残り定員は50人、という状況でした。美团等で先にチケットを購入することも可能ですが、2022年8月の時点でもシステムがパスポートでの予約に対応していないため、外国人は現地でチケットを購入する必要あり。

美術館入り口を入ってすぐ左側にカウンターがあるので、そこでチケットを購入。大人は80元 (企画展の内容によりけり)。すぐ後ろにコインロッカーがあるので、荷物がある人は預けることも可能です。

明珠美術館の設計者「安藤忠雄」関連の展示

ミュージアムを入ってすぐの幅3mx奥行き10mほどのエリアは、安藤忠雄がこのミュージアムを設計した際の資料等が展示されています。が、その数は非常に少なく、また、非常に小さなサイズで展示されているので、この建築の神髄を感じるには非常に物足りない・・・です。

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ビルの中に「卵」を内包するというコンセプトの参考イメージ

入口のすぐ目の前に「光的空间 (光の空間 Light Space)」のミニチュア模型が置かれているのが唯一の目玉、という感じ。この小さなエリア以外には他に常設展らしきものはなく、ミュージアム内では基本的にはいつも企画展が大々的に行われている模様。館内は期待していたよりも広く、かといって広すぎるわけでもなく、最後までほどよく集中して展示を観ることができます。

実際に明珠美術館を訪れてみた際の感想

まず良い点としては、「ごくごく普通」のショッピングモール内に位置するということもあって、それほど期待せずに美術館を訪れたのですが、館内スペースに入るや中の空気が良い具合に締まっていて、作品鑑賞するのにとても心地よい空間だと感じました。安藤忠雄氏が関わったからなのか、なぜか日本の美術館かギャラリーにいるかのような感覚も。

品川の原美術館のように、浮き世から隔絶された「唯一無二の場所」という雰囲気を望むことができないのは当然ですが、地下鉄直結のショッピングモール内というアクセスの良好さが「いつでも気軽に立ち寄れる」「非日常な空間を親しみを感じながら楽しめる」というメリットを生み出していて、こうして気軽にANDO作品に触れられるのは非常に有り難いな、と思った次第です。

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ああああミュージアム内にある唯一の窓から望む、モール内の様子

一方、残念なポイントとしては「安藤忠雄らしさ」があまり感じられない、という点です。ショッピングモール内の美術館という性格上、ファサードやエクステリアが露出する面積は限られていて、また、「ショッピングモール内の一部」という事実が気分的にも「特別感の欠如」に繋がり、どこか物足りなさを感じたのは否めません。

あと、深圳での企画展ではあった「D&DEPARTMENT ポップアップショップ」が上海にはなく (泣) 、、美術館常設のミュージアムショップが (期待してたこともあって) めちゃしょぼい。。MOMAのミュージアムショップが大好きなボクは、建物や作品に関連するアーティスティックなオリジナルグッズがあると期待していたのですが、ここオリジナルの安藤グッズも特に見当たらず、置かれている商品のセレクションにもあまり力を入れているようには感じられませんでした。

あと、途中でトイレがなかったのも辛かったです。落ち着いて長時間作品鑑賞に没頭したい人は、館内へ入場する前に、モール内でトイレに行っておきましょう。

企画展「长效设计:思考与实践 (ロングライフデザイン:思考と実践)」

今回は2022年7月3日から11月6日まで開催 (元は2021年に開催される予定だったのが、コロナの影響で延期) されている企画展「长效设计:思考与实践 (ロングライフデザイン:思考と実践)」を観てきました。

この企画展は日本の「デザイン活動家」である長岡賢明氏が提唱する理念「ロングライフデザイン」をテーマとする展覧会で、9つのセクションで600点余りの作品が展示されています。彼は「私たちはものを愛し、大事に使い、そして長く使えるものの価値を知るべきだ」と主張し、「新しい製品をデザインすることでなく、製品のデザインについて考え直し、個性のある地域デザインを模索しながら、関連性の高く立体的な調査/研究/思考/実践を展開」しています。

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本展の設計は東京と上海を拠点に活動する「小大建築設計事務所」が担当しており、展示物の大半は日本から持ち寄ったもの。寄木細工や瀬戸物のような伝統工芸品から、日本国内それぞれの土地の「独自性」が強く反映されたアイテムの数々が紹介されています。まさか上海でここまで日本の地域のカルチャーにディープに入り込んだ企画展を目にすることができるとは思っていませんでしたが、日本の各地域の多様性・ユニークさ、日本人のモノづくりへのこだわりや繊細さなどに改めて再認識させられ、見応えたっぷりで、とても有意義な時間を過ごせました。

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コンテンツにどっぷり入り込んでしまったがゆえ、ここが安藤忠雄のデザインした空間であることをついつい忘れてしまうほど。。w いや、でもそれがまさに彼が美術館という「ハコ」に求めているものなのかもしれませんが。

本展では上記の展示以外に「回声:本土设计师的探索 (エコー:現地デザイナーの探索)」という展示セクションも設けられ、そこでは10名の優秀な中国人デザイナー&ブランド【碧山工销社、engraft、klee klee、宋悠洋 (PEELSPHERE)、吴滨 (未墨)、杨韬 (涩品)、祎设计、易洪波 (夏木织物)、张雷 & Christoph John & Jovana Zhang (品物流形PINWU)、张娜 (再造衣银行)】らが紹介されています。ここも非常に魅力溢れる展示だったので、また機会があれば別の記事でご紹介したいと思っています。

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【About 長岡賢明 NAGAOKA KENMEI】
活動拠点のショップ「D&DEPARTMENT」を2000年にオープンし、2009年には各都道府県のユニークさをディープに収録したデザインガイドブック「d design travel」を発行開始。2011年にはコムデギャルソンの川久保玲とコラボしたコンセプトショップ「GOOD DESIGN SHOP」をオープン。また、「1960年代にあった実直にものづくりを復刻しながら『企業原点』を見直し、販売しながら『新商品』を作るというものづくり型ブランディング」活動として、「60VISION」を展開中 。その功績に対し、2003年に「グッドデザイン賞 川崎和男審査委員長特別賞」を受賞しています。

明珠美術館と新華書店の間の多目的スペース:光的空间 (光の空間 Light Space)

とまぁ、知らぬ間に安藤忠雄は完全にそっちのけで、長岡賢明関連のトピックに話がそれまくってしまいましたが・・・(汗)、明珠美術館を十分に満喫した後、ミュージアムショップ向かいにある後方出口を出ると、これまた安藤忠雄がプロデュースした「光的空间 (光の空間 Light Space)」へと到着します。

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ここは1000㎡の多機能文化アートスペースになっていて、天井まで続く圧巻の高さの本棚であらゆる壁が埋め尽くしています。そして、星空を模した天井のある湾曲した空間が広がっていて、とても幻想的な光景をつくり出しています。安藤忠雄は「自然界には光が必要だが、光は人々に希望を与えてくれ、私の建築物は中でその光を最大限に感じられるよう設計している」と語っており、それがこの空間が「光的空间 (光の空間 Light Space)」と呼ばれるゆえんなんでしょう。

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清掃員泣かせの、天井まで届く巨大なブックシェルフ

だけども、外光はどこからも入って来ない空間だし、、とにかく人が多くてなんか雑然としているし、正直「ここも本当にANDO!?」と最初感じてしまいました。でも実際、写真に収めたくなるし、幻想的な雰囲気があってスペシャルな空間ではあるのですが、ショッピングモール内に位置して誰もが無料で入れるスペースであるがゆえ、緊張感のない「The 商業施設」的な側面が色濃いエリアです。

週末は全然ユックリできないので、客の少ない平日の早めの時間にやってきてドリンクをオーダーし、静寂と共に空間を楽しむべきスペースなんでしょうね。

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大型書店「新華書店」のメイン売り場

特別にセレクトされた書籍が並ぶ、この「光的空间」の隣の大きなスペースは大型書店「新華書店」のメイン売り場となっており、照明や本棚にこだわりは感じられるものの、多くの人が地べたに座ったり寝転んだりしながら本を読んでいることもあってか、雰囲気はぶち壊し (笑)  こちらでもドリンクを頼んで机で長居することも可能ですが、とてもじゃないですがそんな気分にはなりませんでした。。

まとめ

このように、今回は上海市内中心からもアクセスが良好な「Pearl Art Museum 上海明珠美术馆 (明珠美術館)」と、その兄弟施設である「光的空间 (光の空間 Light Space) + 新華書店」を訪れましたが、ANDO色があまり強くなかったため、ちょっと肩すかしをくらったような印象です。

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とはいえ、前述したとおり、安藤忠雄作品を身近に・気軽に感じることができる場所なので、非常にありがたく感じている次第です。今後も引き続き、上海近辺に点在する安藤建築を訪問し、こちらでご紹介したいと思っています。

また、今回の企画展を通じて知った「D&DEPARTMENT 黄山店」にも、いつの日か是非とも訪問してみたいと思った次第です。こういうきっかけで見聞が広がり、好きなモノやコトが増えていくのってステキですね!

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