中国初の大型安藤作品『上海保利大剧院 (上海保利大劇院)』のために、嘉定へ

上海での安藤忠雄代表作である『上海保利大劇院 (上海保利大剧院)』にこの度、足を運んで参りました。ここは「中国初の大型ANDO作品」と言われる、ファサードの長さが100mを誇る巨大さでも有名な建築です。

実際、現地を訪れてみると度肝を抜かれるインパクトで、建物内外が色んな場所で交わり繋がる、迷路のような仕掛けも見応え十分。機会があれば是非とも実際に体験することをオススメしたい、そんな上海保利大劇院の魅力をこちらでご紹介します。

現前に広がる「远香湖」を有する、絶好のロケーション

上海保利大劇院 Shanghai Poly Theater (上海市嘉定区白银路157号) は上海市内中心から北西へ約30kmに位置し、自動車産業が盛んな副都心「嘉定区」にあります。劇場は地下鉄11号線の「嘉定新城」駅から自転車で20分 (約5km) の距離。昔、近くにクライアントのオフィスがあったので、嘉定区には車でよく通ったものですが、市内からだと高速を使って1時間みておく必要のある距離です。

上海保利大剧院 上海保利大劇院 Shanghai Poly Theater 安藤忠雄 Ando Tadao 嘉定区 远香湖 水景剧院 水景劇場 三十而已 怦然星动
劇場の中から望む远香湖の景色

劇場の目の前には上海西部で最大の人工湖「远香湖」が広がり、上海市内中心ではまずお目にかかれないような、広大な空が広がる雄大な景色を同時に楽しむことができます。一帯が公園になっていて、中国でお馴染みの广场舞 (おばちゃん達が夜な夜な踊って楽しんでいる広場ダンス) が思い存分踊れる広場、散歩道やジョギングコースなども綺麗に整備されており、完全に地元民の憩いの場になっています。ホント、付近の住民が羨ましい・・・!! (けど市内からは遠すぎる。。)

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ちなみにここら一帯にはコンビニや店がなく、公園内に自動販売機がありますけども、規模の大きくない観光地でありがちな「外国人無視仕様」になっているので (中国人の身分証と紐付いたアカウントが必要)、ボクたちは何も買うことができません (泣) なので、ここで長時間過ごす予定の人は飲料等の準備をしていった方が良いです。ボクは真夏に行って汗かきまくっても水も何もないのでフラフラになりました。。

地域の「各」「顔」となり、「文化的万花筒」な劇場に

幅100x奥行100x高さ30mの大きさで総建築面積5.6万㎡を誇るこの上海保利大剧院、総工費はなんと7億人民元 (当時の1億1000万米ドル) !!!!!  2010年に工事が開始され、2013年に竣工、2014年9月30日から正式オープンに至りました。この劇場は上海市嘉定区のニュータウンの開発に当たり、広大な远香湖の公園の一角に地域の「核」「顔」となるオペラ劇場の設計を依頼されたのがこのプロジェクトの始まり。

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2014年発行の雑誌『Casa BRUTUS 特別編集 安藤忠雄 ザ・ベスト』によると、「今回のオペラハウスの設計にあたっては、その立場からも街の顔になるような “ラインドマーク性”」が期待されていて、「それに対し安藤は、建物の外形によるシンボリズムではなく、建物の内側の空間に特徴を持たせ、存在感を示す建築を提案」したということです。

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また、こちらの記事 によると安藤は設計時のコンセプトとして「文化的万花筒 (文化の万華鏡)」を掲げており、「劇場とは本来、自然と人と文化が互いに交わる、特別な場所としての役割を担う場所で、それは外から光を呼び込んで美しく反射する万華鏡のようだ」ということから、「文化的万花筒」と名付けたようです。

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出典:【腾讯网

その結果、地下一階 (駐車場) から地上6階までの巨大な空間の中に、複数の円筒チューブの空間が広がる、まさに唯一無二の建築が完成しました。この立体的に複雑に交差し広がっていく空間では、水・風・光などの自然の要素があらゆる場所で交わり、融合して新たなものを生み出し、その空間に存在する我々「人間」に強いインスピレーションを与えてくれているように感じます。

自然との融合を目指して造られた、4種の異なる劇場

建物内にある大劇場は1466席、小劇場は400席を収容。それらに加え、屋上の「屋顶剧院 (屋上劇場)」、そして湖に舞台がせり出した「水景剧院 (水景劇場)」、の合計4つの劇場を上海保利大剧院は備えています。

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中でも「水景剧院 」はパブリックに公開された300人収容の屋外劇場で (というほど大げさなものでもないですが・・・)、舞台のすぐ後ろには水域面積2万㎡を誇る「远香湖」が広がっています。舞台が湖の中へ突き出したような状態になっており、演者も観客も非現実的で幻想的な世界にドップリはまれそうです。屋外にあるがゆえ、前列座席のシートが日焼けで色が劣化しているのはご愛敬・・・w

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近隣住民が思い思いに過ごすw、夜の水景剧院 (水景劇場)

上述の Casa BRUTUS で安藤は「建物内部に生まれたパブリックの空間が、人々の活発な文化活動を喚起する “もう一つの舞台” になって欲しい」と語っており、まさにこの「水景剧院 」はそれを体現したものとなっていて、実際、ボクの訪問時はダンサーが好きなように踊っていました。安藤の求めた、最新鋭の建築と伝統美、自然環境、アート、人、それらが心地よく融合する場所が実際にここに創りあげられているようです。

東西南北「四面」それぞれから上海保利大剧院を見た印象

東側の面がこの劇場の「顔」と呼べる面で、それと共に「水景剧院」がある南側の面がいわゆる「オモテの面」と言えるでしょう。目の前に湖が広がっていて、ジョギングコースや广场舞のできる広場、記念撮影ができる展望台陸橋があるのがここら一帯です。夕方に行くと西日が差し込んで逆光となるので、東側の面を綺麗に撮るのが難しい時間帯もあり。前に遮るものがほとんど何もないので、かなり遠くの公道から望遠で撮影することもできるでしょう。

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南東側からの「オモテの面」ビュー

南側には大きい階段があり、それを登り切って右奥へ行くと、建物の西側に出られます。この西側の面は、一階に搬入口があることもあってか、なんとなく品がないというか、全体的にどうしても美しく見えないのです、、んでもって、隣のハイアットの入っている高層ビルから見える景色は (残念ながら) この面になります。

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西側からのビュー

が、そんな人気のなさそうな西側からのビューでも、運良くハイアットの劇場側に面した部屋を抑えられた際には、こちらのレビュー を見ての通り、通常はなかなか目にすることのできない「屋顶剧院 (屋上劇場)」がバッチリ見えるので、それは大きな価値があるかもしれません。

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出典:【Ctrip

西側の面を奥へ進むと、(そこになぜか) まるで天空に続きそうな小さなエレベーターがあり、そのエレベーターは小劇場の入口に導いてくれます。開場時間でないためなのか、コロナの影響なのかわかりませんが、ボクが行った時は扉は閉じられたまま。

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(まるで) 天空に続くエスカレーター

でも、なぜエレベーターを稼働させているのか・・・ それは謎です。ちなみに、ボクのように高所恐怖症の人間は結構ビビるぐらいの高さをエンジョイできます、、(!!)

続いて建物の北側へ行くと、そこにはメインエントランスが。この面には「上海保利大剧院」の文字が大きく掲示されていますが、この面も「主役の顔」を演じるほどの強さはないかな、という感じ。

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北側からのビュー

この面が唯一大きい通りに面していて、そこにいると「周辺の建物がどれもANDOっぽい」と感じざるを得ませんw 全部が安藤作品だったりして!? いや、絶対そんなわけない・・・ 金儲けのために投資が絡んでこういうことになっているんでしょう (絶対)。

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周辺にある、ANDO “風” の建物

上海保利大剧院の劇場内へ実際に入ってみる

19:30からの公演に備えて早めに近場で夕食を済ませ (斜め向かいにささやかなショッピングモールあり)、19時前に劇場内に入場しました。一階のメインエントランスは健康吗を見せてセキュリティチェックを受ければ、誰でも中に入れる様子でした。なので、特に公演のチケットがなくても、その日に公演さえなくても (?)、誰でも中に入って写真を撮ることはできる、はず、です!

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中に入ると、ここも安藤が手がけたエントランスホールになります。天井がすんごく高くて開放感に溢れ、静粛でどこか荘厳な雰囲気に包まれています。この場所の右手奥にチケット売り場があり、オンラインでチケット予約した人は映画館のシステムと同じように、そこで紙のチケットへの交換が必要です。

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東側へのビュー (左) と、西側へのビュー (右)

階段をのぼると大劇場への扉があるロビーに到達。ここは曲線が多く、直線のイメージが強い他の空間とは違いとてもお上品な印象。また、実際にこの場所にやって来て扉外の景色を見ると、「外の扉から見た内側の景色はここだったのか!」ということが初めてわかり、答え合わせができてスッキリしますよ 🙂

劇場の「音」へも強くこだわった安藤忠雄

劇場発行のパンフレットや ここの記事 によると、劇場の設計者である安藤忠雄は、この劇場自体が音を奏でる「楽器」となることを望み、劇場内の設計にも強いこだわりを見せています。

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壁の素材には「松」を使用。特別な防火処理を施したうえで、様々な形状に変化させた「松」素材がひとつひとつ、壁に敷き詰められています。その集成材の積層により、劇場内の音がまさに楽器のような柔らかいトーンの音に包まれ、また、美しい楽器のようにエレガントな光沢を放つ、特別な空間となっているのです。

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ちなみにこの劇場は中国で70箇所以上の劇場を有する「北京保利剧院管理有限公司」によってマネージメントが行われており、劇場のハード面のみならず、演目のソフト面も超一流のプロデュースがなされています。彼らの戦略は「树品牌,聚人气,创效益 (ブランドを育み、人気を集め、効果/利益を創出)」で、それに見合った演目が展開され、過去にはニューヨーク・フィルハーモニック、イギリスのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団等の世界各国の名だたる交響楽団の公演が行われています。

人気中国ドラマ『三十而已』、映画『怦然星动』にも登場

上海を舞台に、アラサー女子3人の生活をリアルに描いた2020年の人気中国ドラマ『三十而已 (日本語題:30女の思うこと ~上海女子物語~)』の中にも、この上海保利大剧院のシーンが登場。いかにもプレイボーイの「梁海王」と主人公の1人「王漫妮」が、大劇場で一緒に観劇している様子や、ファサードを背景に車に乗車するシーンなどが映像に収められています。

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出典:【澎湃新闻

以前、語学勉強のためにこのドラマは一通り見たのですが、その際は「えらいパワーのあるスポットだなぁ」と思ったはものの、それが安藤作品とは知りませんでした (汗)  が、とにかく、ドラマ自体は普通に面白いですし、語学&現代社会の勉強にもなって、一石二鳥です。ホントホント。

その他にも、杨幂 (ヤンミー) が出演する映画『怦然星动 (2015)』の中でも大々的にこの劇場がフィーチャーされており、近未来的でどこか非現実的な夜の劇場が良いアクセントになっていますね。

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出典:【澎湃新闻

まとめ

とにかく、実際に行ってみての感想は「デカっ!」で、とにかく大迫力の力強い建築。撮る角度や場所、時間帯によって撮れる写真が全く違ったものになるので、非常に撮りがいのある被写体でした。

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ハイアットが目の前にあって、劇場のオープンからしばらく時間が経過しているので、街がこの劇場を中心にもっともっと発展しているのかと思ったら、そんなでもありませんでした。でも、この記事を書くに際して2015年当時の周辺の様子を見るとビルがほとんど何もなく、その時の状況を考えるとそれなりの発展を遂げているんだということがわかった次第です。

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「街の開発」という視点で考えると商業的には「大成功!」というわけではないかもしれませんが、市民の憩いの場としてきちんと機能しているし、親しみを持って受け入れられているようなので、プロジェクトとしては一応成功なのかな、という感想です。

とても魅力ある建築ですし、色んな顔を持ち合わせているので、また興味がある演目がある時に再度訪れてみたいです。特に、今回見られなかった屋上にはなんとかして行ってみたい! よなぁー

XXX

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